佐藤さんは、世界で最も「バターに近い質感」を追求し、最高級の乳製品だけで家具を作る狂気的な職人だった。彼は妥協なき制作の末、触れた瞬間に意識が溶けるほどの心地よい魅力を持つソファを完成させた。しかし、その滑らかさは極限に達しており、一度座ると摩擦係数がゼロになるため、本人の意思とは無関係にズルズルと床を滑り続けるという欠陥があった。佐藤さんはパジャマ姿で床に張り付きながら、自身の創造した究極の滑走感に陶酔し、大真面目な顔でその快楽に身を任せていた。
彼はこの快作を世に出すため、大手家具店の役員たちを招いた。会議室に据えられたバターのソファに、権威ある役員たちが次々と腰を下ろす。すると、彼らは制御不能な速度で滑り出し、互いに衝突して人間ボールとなって会議室の隅に積み重なった。しかし、バターの濃厚な香りと快楽に脳を焼かれた役員たちは、この中毒的な体験こそが市場で大躍進を遂げる鍵だと確信し、壁に激突したまま震える手で契約書にサインをした。彼らはもはや、自力で立ち上がることさえ忘れていた。
ところが納品当日、猛暑により家具がすべて液体化し、注文は全てキャンセルされた。絶望した佐藤さんが帰宅すると、自室は黄金色のバターの海に沈んでいた。彼は職人の誇りを捨て、絶望の中でその海に深く潜った。すると、体中からバターの香りが染み出した彼は、空腹の野良猫たちに「歩く最高級バター」として認識され、鋭い爪と牙で丁寧に切り分けられながら、彼らの贅沢な晩餐へと消えていった。
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